雑誌「映画秘宝」の編集を担当しておりました、合同会社オフィス秘宝(以下「弊社」とします)代表の田野辺尚人です。
2021年1月末に発覚した弊社前代表社員、岩田和明による悪質ダイレクトメッセージ送付行為につき、これを受信された方に多大なご迷惑をおかけしたことを、改めてお詫び申し上げます。
また「映画秘宝」誌(以下、「小誌」とします)をご愛読いただいていた皆様にも、今回の不祥事についてお詫びいたします。
ダイレクトメッセージを受信された方(以下、「DM受信者の方」とします)とは不祥事の発覚以来、弊社および小誌発行元の株式会社双葉社が、各々の代理人を通して協議を行っておりました。経緯説明とお詫び、再発防止のお約束をもって、弊社は21年8月、双葉社は22年1月に、DM受信者の方との和解に至っております。
上記和解については既に誌面上および公式SNS上で報告をいたしました。しかし不祥事の発覚以降、その対応について詳細な経緯・進捗状況をお伝えしてこなかったことで、DM受信者の方、また読者の皆様には少なからぬ不信感を抱かせる結果になりました。これは弊社・双葉社各社の弁護士を通じて進めていた不祥事への対応に関し、解決に至るまではその詳細を公にすべきではないとの判断に基づくものでした。
小誌は本年3月をもって休刊いたしました。弊社と双葉社との出版契約はこの休刊をもって終了しております。上記弁護士判断により不祥事への対応詳細については長らく伏せてまいりましたが、このたび弊社の側より、発覚から現在までの経緯を伝えさせていただきます。後述いたしますが私には健康上の問題があり、今般の報告をまとめるために相当な時間を要してしまいました。お持たせをしてしまい、申し訳ありませんでした。
オフィス秘宝の成り立ちについて
2020年2月をもって、「映画秘宝」を刊行していた株式会社洋泉社は、親会社の宝島社に吸収合併されました。その際、小誌は以後、宝島社での発行を打ち切る旨を伝えられます。小誌の発行はその時点で20年弱続いており、少なからぬ読者の皆様から刊行継続を望む声をいただいておりました。そこで洋泉社時代の編集長であった岩田和明(以下「岩田氏」とします)と、創刊以来同誌に携わってきた私は宝島社から「映画秘宝」の商標を買い取り、弊社「合同会社オフィス秘宝」を立ち上げるに至りました。
それより以前から私は長らく心身の健康を害しており、うつ病を発症していました。精神障害者手帳を交付され、医師からは心身両面に対する入院加療を受けるよう強く勧められていましたが、一度は休刊となった雑誌を一日でも早く復刊させるべく、会社の設立を優先させました。
弊社は岩田氏と私の2名による合同会社として登記を行いました。雑誌編集者としてのキャリアは年長である私のほうが長かったものの、心身ともに万全でない状態で代表を勤める訳にはいかず、岩田氏を代表社員として始動しました。雑誌編集の実務を行うスタッフに関しては、洋泉社時代からの人員が再度集まってくれました。一部スタッフは洋泉社社員でしたが、新たに設立された弊社と社員契約を結ぶ意向は彼らにはなく、私と岩田氏以外は会社に所属しないフリーランスとして業務に携わることとなりました(彼らのことは以後、「フリー編集スタッフ」と記述します)。
雑誌発行の引き受け先は双葉社に決まり、弊社が小誌の編集を行い、双葉社がその発行・販売を請け負うという契約を交わしました。なお、毎月小誌の編集を行うにおいて、フリー編集スタッフと弊社の間に、書面等での明確な雇用契約は存在しませんでした。スタッフとして編集に関わった各人員に対し、弊社は毎月の刊行完了後に精算を行い、賃金を支払ってきました。小誌編集部がフリーランスとして加わるも自由、抜けるも自由という環境であったことはお伝えしておきます。
以上は弊社の内部事情に過ぎませんが、この後に説明する経緯の前提としてご理解をいただけますと幸いです。
悪質ダイレクトメッセージ送付行為について
2021年1月25日、岩田氏が一般の方のツイッターアカウントに向け、悪質なダイレクトメッセージ(DM)を送付するという不祥事が発覚しました。
当日、私に対して岩田氏本人から連絡があり、「DM送付は第三者の不正アクセスによるものである」との説明を受けました。当時の私は、上述した健康上の問題から判断能力が著しく低下しており、岩田氏の主張を受け入れました。
フリー編集スタッフに対しても同様の説明がなされましたが、その一人であった秋山直斗氏が疑義を抱き、真相解明にむけて行動を起こしました。虚偽の説明を行えば、その後問題が更に悪化すること、何よりDM受信者の方に対して著しく誠意を欠くことになるという理由からの行動でした。
同日15時より、岩田氏は秋山氏の依頼を受けた高橋ヨシキ氏、柳下毅一郎氏による聞き取りに応じ、約3時間におよぶ話し合いの末に、DM送付が自らの手によるものであったことを認めました。高橋氏、柳下氏は小誌創刊当時から執筆者として関わってきた、いわば「創刊メンバー」です。私およびフリー編集スタッフの多くが岩田氏の虚偽説明を受け入れざるを得ない状況下で、岩田氏よりも雑誌に関わってきた年数の長い創刊メンバーが、不祥事の真相解明に果たした役割は大きいと考えています。
しかし、岩田氏の関与という事実こそ明らかにされたものの、同氏はその後独断で双葉社からDM受信者の方の連絡先を聞き出し、周囲に一切知らせないまま受信者ご本人とやり取りを行った上で、個人名義の謝罪文を作成、小誌公式SNSにて発表しています。
当時、DM受信者の方の連絡先が、双葉社から岩田氏に伝えられています。このことで岩田氏のDM受信者の方への直接連絡が可能になったわけですから、双葉社の責任を問うご意見もあると存じます。しかし不祥事が明らかになった当初、双葉社としてもまさか弊社代表自身が問題を起こした張本人であるとは想定できず、弊社に編集元としての対応を依頼して、DM受信者の方の連絡先を伝えたということになります。弊社内で、より早い段階で実情を把握し、私が双葉社との連携を図れていれば、事態の悪化は防げたものと反省しております。
悪質DM送付は岩田氏によるものであるという上記秋山氏の推察は正しく、彼の行動により、最終的に事実が明らかになりました。その時点で岩田氏を弊社の管轄下に置き、発行元である双葉社との協議のもと、対応に向けて慎重に行動すべきでした。それができず岩田氏の暴走を許し、現在の事態を呼び込んでしまったことは悔いても悔いきれない思いです。
1月26日発表の「謝罪説明文」について
1月26日朝、オフィス秘宝/相談役:町山智浩・柳下毅一郎/編集部一同の名義で発信した「謝罪説明文」作成の背景・経緯を説明いたします。
岩田氏の単独行動で発表された謝罪文はDM受信者の方へ多大なご迷惑をかけながら作成されたものであり、これは聞き取り時に岩田氏と高橋ヨシキ氏らが合意した「謝罪文作成を、弊社の監督下で行う」旨に反した行為でした。
この問題行為に加え、さらには事実を明らかにしたDM受信者の方がTwitter上で第三者からの誹謗を受けるという、あってはならない状況も生まれていました。翌日以降の双葉社との協議を待っていては事態がさらに悪化する懸念があったことから、緊急対応として弊社名義での「謝罪説明文」を作成することが話し合われました。オンラインでの話し合いには岩田氏への聞き取りを行っていた高橋氏、柳下氏、秋山氏、および小誌執筆者の一人であるてらさわホーク氏が参加しました。文面の承認と発表のために、私とTwitterアカウントの管理権限を持つ当時のフリー編集スタッフ、A氏が電話とオンライン会議で加わっています。また創刊メンバーである町山智浩氏も追って参加しました。
会議の議題は
・まず、雑誌の編集元である弊社に、不祥事の責任があると申し出ること
・その後、発行元の双葉社と協議の上、誠意ある対応を行っていくと伝えること の二点でした。
ここで作成された「謝罪説明文」の主旨は上記のみであり、DM受信者の方に不要なプレッシャーを与えることはもとより、不祥事の揉み消しや矮小化を図る意図は一切ありませんでした。
しかしながら、双葉社との協議を待たず、弊社の独断で「謝罪説明文」の発信を行ったことは拙速に過ぎる行動ではありました。また、不祥事の当事者であった岩田氏と直接のやり取りを強いられ、すでに多大な精神的負荷を受けていたDM受信者の方に、同文書の発表でさらなる衝撃を与えてしまったことは反省してもしきれるものではありません。
「謝罪説明文」発表時に行われた「パワーハラスメント」と称される件について
上記声明の発表から約一ヶ月後、私と上記オンライン会議出席者は、A氏からTwitter上で、「深夜に呼び出され、反対したにもかかわらず『謝罪説明文』の発表を複数人から強要された」旨の指摘を受けています。一部にはこれが所謂「パワーハラスメント」であるという批判がありました。小誌公式Twitterへの「謝罪説明文」投稿がA氏の意に沿わないものであったことはオンライン会議出席者の全員が自覚し、のちに各人からの謝罪を行っています。
しかし当日の状況を詳細に記すならば、A氏の主張はあくまでも翌日以降に双葉社と協議を行ったほうがよいのではないか、というものでした。
これに対して会議出席者は、弊社の責任を早急に明らかにし、今後の対応を約束すべきであるとA氏に説明しました。すでに岩田氏がDM受信者の方と直接連絡を取り「謝罪文」を発表してしまっていたこと、不正確な情報をもとにDM受信者の方への誹謗が始まっていたことなどがその理由でした。A氏に納得してもらう必要があったのは、当時「映画秘宝公式Twitter」の管理権限を持っていたのが同氏のみであったからです。事実、秋山氏に同アカウントのIDとパスワードを教えることも議論されました。しかしA氏自身がそれに納得せず、自ら朝8時に予約投稿をするという結論に至りました。
上記の経緯につき一部に流布している、謝罪説明文発表時にいわゆる「パワーハラスメント」が行われたという指摘は適切ではありません。弊社およびフリー編集スタッフは発注を行う側であり、高橋氏、町山氏、柳下氏、てらさわ氏は受注側の執筆者です。労使関係上において力の強いものが弱いものに意に沿わない行為をさせることが「パワーハラスメント」の要件です。執筆者から編集者へという関係で、これは成立しえません。このことについては客観的な事実に基づき、複数の弁護士から同様の見解を得ています。また、フリー編集スタッフも上記Twitterでの指摘において「パワーハラスメント」との呼称は使っていないことはお伝えしておきたいと思います。
もちろん町山氏、柳下氏ほかにはキャリアの長い年長者、特に町山氏においては雑誌の創刊者として、フリー編集スタッフへの影響力は大いにあったものと考えます。しかしそのことを振りかざして「謝罪説明文」の発表を強いたという事実はありません。SNSへの投稿は、弊社責任者の私からA氏に対し、業務上の依頼として行ったものです。
不祥事後の対応について
DM送付の事実発覚から数日後、岩田氏は弊社を退社しています。当人はその後弊社の業務には一切関わっておらず、また不祥事の解決にむけた聞き取り調査等にも関与しておりません。
岩田氏と並ぶ弊社社員として、私には彼の処遇を決定する義務がありました。同氏の退社を容認したことについては上記「謝罪説明文」発表と同様に、やはり拙速に過ぎる決定であったと考えています。不祥事の全容を解明し、今後同様な事態が起こることを防ぐ意味でも、会社として岩田氏の身柄に責任を持つべきであったからです。岩田氏が起こした問題に、本人自身で責任を取らせるためには、同氏を退社させるべきではありませんでした。
なお、この場合の「責任を取らせる」ということに関しては、例えば岩田氏自身にDM受信者の方へ連絡をさせる、といったことを意味しません。弊社社員である私と、当時の発行元である双葉社との管理下において、必要な情報の提供や説明をさせる、ということが必要でした。同氏が自分自身の行為について真摯に振り返り、反省をする上では、会社組織の管理が不可欠であったと考えます。
しかしそれは叶いませんでした。DM送付の事実発覚から数日後、私はフリー編集スタッフ数名から、「岩田氏を退社させるべきである」との強い提案を受けました。すでに彼らから岩田氏本人に、同様の通告が行われていると聞き、私はそれを承認しました。同様に、不祥事の真相究明に関与した秋山氏も編集部から除名すべきであるという提案を、フリー編集スタッフ数名から受けました。外部執筆者に過ぎない高橋氏・柳下氏らに協力を仰ぎ、事態を複雑化させたため、および以前から業務進行に関して問題があったため、という旨が、理由として伝えられました。私はこの件についても承認をしました。
悪質DM送付以前から、岩田氏と私、フリー編集スタッフの間には、それぞれ確執が存在しました。私は長らく毎月の編集会議への参加を許されておりませんでした。これは岩田氏が指示し、フリー編集スタッフが従ったものです。また岩田氏と一部フリー編集スタッフの間にも不和があったと聞いています。あるスタッフは会議において、出席者全員の眼前で業務からの即時撤退を岩田氏から指示されたといいます。
上記は一例に過ぎず、弊社代表社員としての岩田氏の専横は常態化していました。悪質DM送付という不祥事への「あくまで悪意の第三者による迷惑行為であった」との疑わしい説明についても、フリー編集スタッフがそれを受け入れるしかなかったという背景については理解ができます。
こうした状況がありながら、様々な決定を自分自身の意思で下せず、岩田氏および当時のフリー編集スタッフの提案をすべてそのまま受け入れてきたことに関して、私には後悔してもしきれない思いがあります。心身に不調をきたす以前であれば、自分自身で考え、決定できたことが、当時の私には判断できませんでした。
岩田氏が辞職し、弊社「オフィス秘宝」唯一の社員となった私は、会社と雑誌を存続させるために、以前にも増して周囲からの指示・示唆を全て受け入れることとなりました。その結果、物事の是非を判断し、自分が正しいと思う方向に決定を下すということが、私にはより難しくなりました。
仮に会社、または雑誌がなくなることになったとしても、岩田氏によるDM送付が明らかになった時点で、不正は許さないという断固とした姿勢を取るべきであったと今では考えています。私の心身両面における健康上の問題を、数々の問題を適切に解決できなかったことの言い訳に使うつもりは全くありません。しかしながら、いくつかの重要な局面において然るべき判断ができていれば、DM受信者の方にも読者の皆様にもご迷惑をおかけすることはなかったのではないかと、今でも考え、反省しております。
以上、不祥事発覚から現在に至るまでの状況について報告をさせていただきました。
今般の不祥事で多大なご迷惑をおかけしたDM受信者の方には、重ねてお詫びを申し上げます。申し訳ありませんでした。
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